人生の後半を普通に歩いていた自分が残りの人生をスペインで過ごすことになるとは5年前までは想像もしていなかった。
運命的な出会いを経て、3年前にスペインに来た。
それまでスペインに旅行したこともなかったし、スペイン語を勉強したこともなかった。
しかも、闘牛やフラメンコといった典型的なスペインのイメージとは程遠い北西のガリシア州の小さな町で生活することになるとは夢にも思っていなかった。
自分にとって大変大きな変化で不安もあったが、それよりは新しいパートナーと二人で新しい人生を歩いて行くという希望が勝っていた。
言葉、文化、習慣などの違いはあったが、運命的な出会いの通りとても幸せで夢のような日々だった。あの日がくるまでは…。
昨年、2015年の1月に最愛の妻が突然この世を去ってしまった。何の心の準備もできないままに…。
一緒に暮らし始めてから1年9か月でのお別れだった。
日本に全てを残し、彼女を幸せにすることだけが残りの人生の目標だったのに。彼女の死が信じられず、現実を見つめることができなかった。
二人の共通の趣味であった写真も撮る気にはなれず、食欲もなくなり、彼女の思い出の詰まった家にひとり取り残され泣いていた。
外出する気にもなれず、唯一外に出るのは坂を上った先にあるお墓に行って彼女に話しかけるときだけ。
3月になると今度は自分の身体に異変が。最初は悲しみと食事がのどを通らないせいだと思っていたが、日に日に体調が悪化し病院に行くことに。
結局、2回の入院の結果大病と診断され、手術することになった。
日本では入院も手術も点滴さへ打ったこともなかった自分がスペインに来てこんなことになるなんて、しかも、このタイミングで…。
5回の入院と4回の手術を経て、今年の7月に家に戻ってきた。
彼女が自分の命と引き換えに僕に新たな命をくれたのだと思う。
この新しい命を無駄にすることはできない。
彼女の分も前を向いて生きていかないと!
もう一時も時間を無駄にしたくなかった。
その時、いつか二人でやろうと話していたサンティアゴへの巡礼を思い出し、決意した。
9月にイギリス人の道を歩くことにした。
イギリス人の道にした理由は、
- 距離が約120㎞であり、20㎏瘦せてしまった病み上がりの身体でもやってやれない距離ではないと思ったから。
- 自分の住む町がこの道のルート上にありいくつかの町になじみがあるので、全く知らないところよりも歩きやすいと思ったから。
サンティアゴ巡礼をする目的は、
- 彼女から貰った新しい命で新たな人生を歩いて行く記念として。
- 巡礼の中でこれからどう生きていくかを見つけるため。
- 120㎞歩ききることで、体調が回復したことを証明するため。
そして、この巡礼はひとりでやり遂げなければならないということ。
スペインに来てから常に妻、妻の家族やいろいろな人たちに支えられてきた。
これからこの地でひとりで生きていくためにも、一人でやることが大事なのだ。
まだ、最後の手術の傷口が完全ではないが、明日から歩くトレーニングを始める。
0コメント